| 『こんなものが商売になるのか?』
きっかけは10年以上昔に遡る。
「当時、あるメーカーさんから30万画素級のデジカメの撮影データ、つまりRAWを頂いたんですね。それを市川(市川ソフトラボラトリー社長:市川芳邦氏)が見て、RAWの中に含まれているデータ量の多さに着目したんです。
同時に“このデータからもっと綺麗な絵(画像)を作り出せるのではないか?”と考えたのがきっかけでした(横山氏)」
前述のように、カメラが生成するJPEGの画像は圧縮形式の画像データだ。言い方は悪いが、もとはデータ量豊富なRAWから情報を間引いたり、省略して生成されるのがJPEGと言い換えてもよい。
ともあれ『SILKYPIX』の開発がスタートするが、「当時は『RAWはプロの写真家向けのフォーマットだろう?』という風潮が主流で、RAW現像ソフトなんてビジネスとして成立するのか? ニーズがないのではないか? と社内でも賛否両論。ほかのことをやったほうがいいんじゃないか、とまで言われていましたね(伊藤氏)」
よって当時、開発は部署単位ではなくプロジェクト単位で進行。開発陣は市川社長を含めてたったの3名だったと言う。それでも開発を進行したのはなぜか。市川社長には「これはいける!!」という確信があったのだろうか。
「市川は『いける』という確信よりも『やってみたい』情熱が勝っていたんです。そもそも市川は写真が大好きで、RAWへのこだわりも、よりよい写真のため……という気持ちが強かった(横山氏)」
『SILKYPIX』の開発当時は、まだデジタル一眼レフのバッファメモリの容量は少なく、カメラに搭載されている画像処理エンジンの処理速度も今に比べれば遅かった。RAWで記録しようものなら、しばらくカメラが『書き込み中です。お待ちください』状態に陥り、撮影のテンポ云々以前に「RAWって使い物になるの?」とすら思われていた(注2)。
デーンと構えてスタジオ撮影をする、時間が無尽蔵にあるプロカメラマンならまだしも、スナップやら家族写真やら、フットワークを必要とする市井のユーザーにとってデータの書き込みの遅さは致命的。
それでもRAWはよい、RAWは必ずやよりよいデジタル写真の担い手になると信じる心。それはビジネス云々を想定していたら、とても貫けないであろう信念だ。 |