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デジタル家電レポート
 デジカメの一般的な画像の保存形式=JPEGは、デジカメが記録した大本のデータを圧縮する保存形式である。ではその大本のデータとはいったい何か。それが今回の物語の主題となるRAWなのである。
RAWって何? −そんな時代から開発が始まった

 RAW−。それはデジカメが記録したそのままのデータ、なんら加工がなされていない“生”データのことだ。デジタル一眼レフに親しんでいるユーザーならば、保存形式の中に「RAW」の三文字があることはおなじみだろう(注1)。
  当然のことながら、圧縮画像形式であるJPEGに比べて、大本になるRAWは圧倒的なまでのデータ量を有している。このRAWを調整、コントロールし、よりユーザーが望む“絵作り”を可能にするのが、いわゆる“RAW現像ソフト”と呼ばれるものだ。
 
 あらかじめ間違いのないように記しておくが、RAWはJPEGやTIFFといった汎用の保存形式ではない。各カメラメーカーによってその形式は異なり、キヤノンにはキヤノンのRAWがあり、ニコンにはニコンの、オリンパスにはオリンパスのRAWがある。
  つまりメーカーの数だけRAWの規格があるのだ(それぞれに互換性はない)。そして各社は自前のRAW現像ソフトを別売もしくはカメラに同梱しているのが現状だ。  
 
  一生、一メーカーのカメラを使い続けるならなんら問題はないが、複数のメーカーのRAWを並列で扱いたい場合や、そもそもメーカー純正の現像ソフトに馴染めない場合は、なかなか困ったことになる。
  だがここに、たった一本でありとあらゆるRAWに対応している究極のRAW現像ソフトがある。それが市川ソフトラボラトリーから発売されているソフト『SILKYPIX Developer Studio』だ。この現像ソフトの開発が始まったのは、まだユーザーがRAWというものを知らない昔であった。

『こんなものが商売になるのか?』

 きっかけは10年以上昔に遡る。
 
 「当時、あるメーカーさんから30万画素級のデジカメの撮影データ、つまりRAWを頂いたんですね。それを市川(市川ソフトラボラトリー社長:市川芳邦氏)が見て、RAWの中に含まれているデータ量の多さに着目したんです。
 同時に“このデータからもっと綺麗な絵(画像)を作り出せるのではないか?”と考えたのがきっかけでした(横山氏)」
 
 前述のように、カメラが生成するJPEGの画像は圧縮形式の画像データだ。言い方は悪いが、もとはデータ量豊富なRAWから情報を間引いたり、省略して生成されるのがJPEGと言い換えてもよい。
 ともあれ『SILKYPIX』の開発がスタートするが、「当時は『RAWはプロの写真家向けのフォーマットだろう?』という風潮が主流で、RAW現像ソフトなんてビジネスとして成立するのか? ニーズがないのではないか? と社内でも賛否両論。ほかのことをやったほうがいいんじゃないか、とまで言われていましたね(伊藤氏)」

 よって当時、開発は部署単位ではなくプロジェクト単位で進行。開発陣は市川社長を含めてたったの3名だったと言う。それでも開発を進行したのはなぜか。市川社長には「これはいける!!」という確信があったのだろうか。
 
 「市川は『いける』という確信よりも『やってみたい』情熱が勝っていたんです。そもそも市川は写真が大好きで、RAWへのこだわりも、よりよい写真のため……という気持ちが強かった(横山氏)」
 
  『SILKYPIX』の開発当時は、まだデジタル一眼レフのバッファメモリの容量は少なく、カメラに搭載されている画像処理エンジンの処理速度も今に比べれば遅かった。RAWで記録しようものなら、しばらくカメラが『書き込み中です。お待ちください』状態に陥り、撮影のテンポ云々以前に「RAWって使い物になるの?」とすら思われていた(注2)。
  デーンと構えてスタジオ撮影をする、時間が無尽蔵にあるプロカメラマンならまだしも、スナップやら家族写真やら、フットワークを必要とする市井のユーザーにとってデータの書き込みの遅さは致命的。
 
  それでもRAWはよい、RAWは必ずやよりよいデジタル写真の担い手になると信じる心。それはビジネス云々を想定していたら、とても貫けないであろう信念だ。

RAWを使ってもらうにはまず布教

 RAW現像ソフトを作ったとしても、前述のようにユーザーの間に「RAWって使い物になるの? わざわざ重いRAWで記録するメリットってなに?」という風説が根強く残っていては、せっかくの志も水の泡だ。
 
  デジカメ本体・ハードウェアの抱える致命的な弱点についてはまず脇に置いておいて、開発陣はソフトの開発とともに、RAWのよさをセミナーやWeb、媒体などを通じてRAWを積極的に使おう!! という“布教”を開始。プロの写真家にも協力を仰ぎ、RAWのメリットをユーザーに伝えていった。
 
 当時、記録形式としては絶対だったJPEGは、再保存を繰り返すと劣化が進むので(注3)、ある種「一発勝負」な側面がある。
 
 当然、後加工・レタッチなしで一発でいい絵を撮る(=撮らねばならない)には、高度なテクニックが必要だ。シャッターチャンスをモノにする腕はもちろんだが、適正露出やホワイトバランスに関する知識は必須。しかも間違えずにそれらを設定しないといけない。
 
  「RAWのメリットは多少の露出設定の誤差やホワイトバランスの設定ミスを、後からいかようにでもカバーできる点にあります。何度調整して保存しなおしても、元のデータは劣化しないというJPEGに対する優位性ですね。つまりRAWを使うということは、それらの設定に余分な神経を使うことなく、撮影の現場でシャッターチャンスに専念できるわけです(伊藤氏)」
 
 いくら撮ったばかりの画像をすぐ確認できるのがデジカメのメリットとは言え、一瞬のシャッターチャンスを画像確認作業でフイにしてしまっては元も子もない。RAWで記録すれば、現場での多少の失敗はカバーできる。
 
 また「違いがわかる」ハイアマチュアの人たちには、カメラが生成したままのJPEG画像と、RAWを現像して生成した画像の明確な違いを理解してもらうことができた。『SILKYPIX』が開発当初から目標とした「RAWの持っている情報量を最大限に活かし、ネガフィルムの持っている階調の幅の広さを再現する」コンセプトは、ユーザーに認知されたのである。

純粋に“写真が好き”というユーザーに受け入れられた『SILKYPIX』

 「当時、デジカメが生成するJPEGの絵作りに満足できなくて(注4)、デジカメ離れした人たちが少なからずいたんです。でもその人たちが『SILKYPIX』をきっかけに、RAWって使えるじゃないか、デジカメってまだまだいけるじゃないかと言ってくれた(横山氏)」
 
 JPEG画像に満足できなかった人たちの多くは、デジカメが作り出すJPEG画像の出来の良し悪しに、ある種の理不尽さを感じていた人たちと言える。
 
 それはフィルムを交換できないデジカメの「買ってしまったらそのカメラの作り出す絵に付き合う覚悟が必要とされる」不自由さに妥協できない真摯な気持ちとも言い換えられる。
 
「市川がRAWの可能性、自由度の高さを通じて伝えたかったのは『写真の“色”を作るのはカメラじゃない。ユーザーさんです』ということだったんです(伊藤氏)」
 

 かくして『SILKYPIX』の最初のバージョンが2004年に発売される。それは発売以前にバックオーダーが入るほどの注目を集めた。
 
 ユーザーは“デジタル”写真が撮りたいわけではない。“写真”が撮りたいのだ。そのためのツールがデジカメなだけであって、そのデジカメが作り出す絵に振り回されるのは、写真を撮りたい人にとっては本末転倒……。『SILKYPIX』はそういった諸々の縛りからユーザーを解放してくれる救世主となったのだ。
 ビジネス的な、ドライな見地ではなく、写真が好きという純粋な動機からソフトの開発に挑んだ市川社長以下、開発陣の気持ちはユーザーに伝わったのだ。

次回予告:デジカメ文化を席捲する日本から『SILKYPIX』を発信することの意味とは!?
……第2回へ続く
営業部 第2営業課 横山崇氏
第一営業部/教育事業部 伊藤拓也氏
株式会社 市川ソフトラボラトリー
本社 千葉市美浜区中瀬1-3-CD5
幕張テクノガーデンビル
東中央館(CD)5F
代表者 代表取締役 市川芳邦
設立 1988年(昭和63年)7月1日

事業
内容

パソコン用グラフィックソフトウェア開発・販売 ・デジタルカメラ用RAW現像ソフト(SILKYPIX Developer Studio)
コンシューマ向けグラフィックソフト(デイジーシリーズほか)
教育用グラフィックソフト (小・中・高等学校および専門学校向けソフト)
デジタル画像処理ソフトの受託開発 (企業向けにデジタル画像処理技術を提供)
プリンター、デジタルカメラ等のデジタル機器およびパソコン等にバンドルソフトを提供
URL http://www.isl.co.jp/
●トピック
1994年  「デイジーアート」 日本ソフトウェア大賞受賞
1998年 「デイジーコラージュ」 中小企業優秀新技術・新製品賞の優良賞受賞
1998年 千葉県ベンチャー企業経営者表彰・入賞
注1 コンパクトデジカメにもRAWによる記録を選択できるものがあるが、一部の高級機種・デジタル一眼のサブ機を意識した機種のみに限られているのが現状だ。
注2 この書き込みの遅さの解消は、奇しくも『SILKYPIX』と同じく2004年に発売されたNikon『D70』によって新たな次元に進む。“無限連写=記録メディアがいっぱいになるまで連射が続けられるという意味”の異名をとるD70は、画像処理の高速処理とメディアへの書き込み速度の向上(バッファメモリの上手な使い方)の併せワザで、いちやくRAWを“使える”記録形式に昇格させたのだ。
注3 これを解決したのが市川ソフトラボラトリーの誇る最新技術『RAWBRIDGE』だ。『RAWBRIDGE』は圧縮データであるJPEG画像を一度、RAWデータの状態に戻して各種の調整を行える技術であり、従来の「JPEG=レタッチ・再保存による劣化=レタッチに不向き」という常識を覆している。詳しくは後編にて。
注4 カメラが生み出すJPEGの絶対性はそれほどまでに強固だった。このカメラのJPEGは自分に合わない!! と思ったらカメラを買い換えてしまうデジカメ・ジプシーと呼ばれてもおかしくないユーザーが多くいた。
最終更新日:2008年1月31日
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