実験はすべて手作業、機材も多くは手作り
「基礎研究ってこんな感じ」――それが第一印象だった
「基礎研究ってこんな感じなのかなというのが、CD-R開発チームに入ったときの印象です。当時は、CDと同等の12cm径の円盤を作ることさえできませんでしたから。」
CD-R開発チームに配属されたころのことをこう振り返る新井氏。氏曰く、当時は、ほとんどすべての作業が「手作業だった」のだという。もちろん、実験用の機材についても同様。実験をするにしても、新しい物だから、実験器具がない。だから、「自分たちで色々なものを作るしかなかった。(新井氏)」
たとえば、記録実験は、手作業で実験用のディスクを製造し、それに対して手作業で記録することで行ったという。「実験用のディスクは、当初、5cm各のポリカーボネートの普通の板に、我々が後に使うことになる色素材料を手作業で塗りつけて、それをディスクに見立てて行いました。実際の記録実験は、顕微鏡に似た形のレーザーのガンがあり、5cmのディスクをそのガンの下におき、自分で覗き込んでシャッターを切るようにすると、レーザーがビシッと5cmのディスクに対して発射されるんです。それで、ビシバシとやりながら、記録できるできないということを確認するわけです(新井氏)」
手作業による記録実験は、ディスクの形状がCDと同じ円盤状になってからも変わらなかったという。「さすがにCDと同じ形状の円盤を作るところは、手製ではできなかったので、射出形成機でやるようになりました。しかし、そこから上に色素材料など色々なものを乗せて重ねていく、つまり、塗った張ったという行為は、ほとんど手作業でした。また、この塗った張ったという加工行為に使用する機器もほとんど手製でした。(新井氏)」
円盤形状の記録実験用ディスクの製造には、思わず笑ってしまうような実話もある。その一例が、記録材料の色素の塗布の方法で、なんと「注射器」を使って手作業で行ったのだという。「ディスクへの色素塗布は、陶芸で使うロクロのようなものの上にディスクをおき、回転させて注射器を使って色素を塗るんです。当時、CD-R開発チームでは、これができるようになると一人前と言われました。垂らす量とかありますから。これが難しいんです。(新井氏)」
この作業は、現在では、スピンコーターと呼ばれる装置で行われている。スピンコーターは、上記の手作業を機械で自動的に行うようにしたような機器である。ディスクを高速回転さえ、そこに液状の材料を落とし、ディスク全面に均一な厚みで材料を塗布する装置だ。CD-R開発チームは、これと同じことを手作業で行っていたというわけで、ある意味、職人芸といえるかもしれない。
新井氏は、当時を振り返りこう話す。「他のこともそうなんですが、知らないことの強さっていうんでしょうか。こういうものなのかなと思っていると、実験環境が悪いとか、こんなレベルなのかとか悲観するようなこともありませんでした。今思えば、見えない世界の実現にむけてひたむきにやっていたという感じなんでしょうか。」
CD-Rの開発を始めてから2年半、ひたむきな努力の成果として。太陽誘電は、当時、社内で「CRD(コンパクトレコーダブルディスク)」と呼ばれたCDアッパーコンパチの12cmのライトワンスディスクを開発する。 |